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  • 執筆者の写真ヴェルデ

つづき

第2話 里の意思、私たちの意志


"遠くない未来、この里は地図から消え去ってしまう"

森の声が示した言葉はティグリの心に深く突き刺さり、思案を巡らせる。


「どうしたら私は森を守れるの…?」


力ない呟きは風に乗って消えていく。

仕事を終えて完成させた薬を持ち、姉であるディフォールが居る防人の修練所へ向かう。自分が何も出来ないとしても姉であれば自分一人で抱え込むよりも良い案を出せるという結論からだった。大樹と大樹を繋ぐ長い道を歩き続け夕方になりかける頃、修練所に辿り着く。扉を開け、震える声で戦士長のヴィエラに話しかける。


「あの…お姉ちゃ…えっと…ディフォールさんって…今どこに…」


「ん?あぁ、あんたがあの子の妹さんかぁ!そこ真っ直ぐ行って曲がったとこに開けたとこがあるからその辺で探してみな!」


細身ながらも筋肉のついた気力のあるヴィエラは壁に蔦が生えた通路を指さし、装具の手入れに戻る。

ティグリは一礼してその通路を歩いていく。遠くからは訓練中のヴィエラの掛け声や矢が的に突き刺さる音が響き、その度にびくりと体を震わせる。

しばらく歩くと日当たりの良い庭園に出た。木の上に作られたにしてた樹木も多く一見落ち着いた雰囲気の空間のようだが、配置された的や木人がこの空間の使用用途を物語る。

そんな庭園の端で木の幹にもたれ掛かりながら自身の弓矢の整備をしている姉の姿があった。


「お姉ちゃん…!よかった、ここにいた…」


「ティグリ?ここまで来るなんて珍しいわね…何か用があってきたのかしら?薬の荷運びという訳でも無いでしょう?」


それを聞くとティグリは今日あったことを順々に話し始める。薬師として仕事を全うしていること。テトランがディフォールに対して感謝を述べていたこと。そしてティグリが偶然耳にしてしまった森の声の事。

話を聞いたディフォールは驚いたあと、考えを巡らせ、やがて1つの考えが浮かぶ。


「正直突拍子もない話しすぎて何がなんだかわからないというのが本音だけれど、原因に心当たりはあるわ。最近森の中で帝国兵の姿を見ることが増えたのよ。恐らくは数年前から懲りずに破魔石の研究を進めるそのためにヴィエラの個体を実験台に…そのために里に押し入る…なんてとこかしら…」


「可能性は…あるよね…」


「何にしても私のような一兵卒ではどうにもならないわ、里長にかけあって話をしてみましょう」


その言葉を聞いて目を輝かせるティグリ。


「でも今から行くと帰りが夜になりそうだし、明日向かいましょうか」


「それは賛成だよ、お姉ちゃん…私今日はなんだか疲れちゃった…」


そう言うと2人は自宅へ帰っていく。里の様子は何も変わりなく、まるで自分たち以外声を聞いていないかのような状態にあった。

自宅に戻り訓練のついでにディフォールが狩ってきた獣肉で簡単な夕食を済ませ、泉で水浴びをした後寝室に戻る。

ディフォールが大きく伸びをし、寝台に寝転ぼうとした時ティグリも同じ寝台に寝ようとした。


「…ティグリ……」


呆れるように呟くディフォール。距離を取ろうとしたところを絶対に話すまいと体にしがみつく。


「分かってる、でも…怖いから…少しでもお姉ちゃんの傍に…」


すがりつくティグリを見てため息を漏らすディフォールだったが諦めがついたのか、好きにしろと言わんばかりに早々に眠りについた。


「お姉ちゃん…手…」


ティグリはそう囁くと自分の手をそっとディフォールの手に重ねる。


「ええ…そばに居るから、安心しなさい…」


ディフォールは重ねた手をしっかりと握りしめ、答える。

彼女の言葉は手を重ねた時点で既に眠っていたティグリに届けられる事となった。


翌朝、少し遅めの時間に起きた2人は手早く身支度を済ませ、朝露が滴る木々を横目に里長の居る社へ向かう。

側近のヴィエラに中へ通され2人はエルトの里の里長、ヨーテと対面する。


「お前たちが来ることは森の囁きで分かっていた、要件までは伝えてはくれなかったがな、何用だ?」


凛とした態度でヨーテは2人に接する。その様子を見て少し後ずさりしたティグリに代わってディフォールは要件を伝えた。妹の聞いた森の声、それに対する原因の考え、そしてその件に対する対応を里長に問う。


「つまりは半人前の聞いた声1つに民の力を割けというのか?彼女以外誰もその声を聞いていないというのならば彼女の狂言とも考えなかったのか?ともかくその程度の話で労力を割く訳にはいかない、話はそれだけか?」


その言葉を聞き、食い下がろうとするディフォールをティグリが抑える。


「どうして…!?」


「だめ…お姉ちゃん…里の意志だもの……仕方ない……」


「だとしても!」「お姉ちゃん!!!」


内気なティグリからは珍しいはっきりとした声で姉の行動を否定し、姉の手を引きその場を立ち去る。


「…すまない」


2人を見送るヨーテの呟きは誰一人として聞くことは無かった。


その日の夜、2人は同じ部屋に集まり同じ机を囲んで座る。


「あの様子だと里は動きそうにないわ、ティグリは里のために何か策があって引いた訳でも無いでしょう?」


顔を伏せ、ティグリは答える。


「最悪の事態は…考えておこう…」


「最悪?ティグリがそんなこと言うなんて相当追い詰められたみたいね?命惜しさに森を捨てて外の世界で生きるとでもいうのかしら?」


「……ほんとうに最悪な時は…」


「例えそれが掟破りだとしても?」


「…うん…」


ディフォールは椅子から立ち上がり今にも泣き出しそうな表情のティグリの隣に座り、手を握る。


「乗ったわ、ティグリ…なにもかもが上手くいかなかったら二人で逃げ出しましょう。でも今はまだできることがあるもの、森の中の帝国軍を追い払うくらいなら私たち二人でできるはずよ」


二人の意思は固まり里のため、森のため、そして自分たちのために原因を取り払おうと決意する。


「半人前だろうと出来ることはあるということを見せてあげましょう。」


第3話につづく


たぶん5話くらいで区切れる予感、あと頭回ってないのばれちゃう

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