「…かい…もの?」
「お願いします!ウィスタリア様!本来客人にこのようなこと任せられることじゃないのですが…」
紫髪の少女と慌てた様子の緑髪メイドが話し合う声。ウィスタリア・アムネセージはプリマヴェーラの屋敷にちょくちょく遊びに来る、セレナータの親友だった。今日もまた、仕事の休みの間を縫って屋敷に遊びに来たのだが、緑髪のメイド、シトラスは屋敷の主人や居候のアイドル、お抱えのメカニックからの買い物をこなせるだけの時間はなく、ウィスタリアにそれを依頼しようとしていた。
「ううん…いいよ…セレスちゃん連れて行ってくるよ…」
「いえ…セレナータ様、今日はお仕事でいませんよ?」
「…ヴェルデさんは?……リモーネちゃんも?……最悪マキナちゃん……でも……いいけど」
シトラスは残念そうに口を開く。
「…申し訳ありません…お嬢様方はお仕事でアークスシップへ…マキナ様は…いるにはいるのですが…メモを渡したっきり邪魔するなって……」
「悪い子…」
苦笑いしながらウィスタリアは答える。
「ごめんね…シトラスさん…わたし…ひとりじゃだめだから…」
「えぇー…どうしましょうどうしましょう……うちのメイドたち…今日はみんな仕事中……暇な人暇な人……」
「…ひとり…心当たり、あるよ」
ウィスタリアはそう言うとホログラム端末を取り出し連絡をとり始める。
「…そういうことで…30分後、現地集合……切るよ…」
雑な連絡の後、シトラスに微笑んで結果を答える。
「おっけ……来ないわけ…ない……買い物の…メモちょうだい…いってくる……」
ペコペコと頭を下げるシトラスを尻目に屋敷を後にしたウィスタリアは目を閉じ、意識を集中させて呟く。
「忘却の華よ、私を運んで…」
風と花弁に巻かれた彼女は元いた場所から姿を消していた。
約1時間後、集合場所の大型ショッピングモール、冬の冷たい空気が嘘のように建物内は暖かく、都会特有の活気と喧騒に包まれていた。
「痛い痛い痛いぃ!?」
「………(レディーの誘いに遅れるなんていい度胸してると思うな)」
「だーからってテレキネシスでそこら辺のもの僕に投げつけないでくれないかなぁ!?いやこの場合投げつけるというよりぶつけるだしそれよりも人!けっこう目立つから!パフォーマンスだと思われてるうちにやめて!」
「ふーんだ……」
ウィスタリアは能力を解除して次投げようとしていたレンガ片を下ろす。
「まったく…それに僕仕事中だったんだからね?あとでなんて言い訳すればいいのさ?もう減給される給料も残ってないよ?」
「……それでも…女の子の誘い…を…選ぶと思った……だから…呼んだ…」
「はぁ…で、何を買いに行くんだい?僕が荷物持ちできるレベルだといいんだけど…」
「…たぶん…むり…あとで…車呼ぶ…」
そう言うと彼女はメモを見せつける。
〔シトラスちゃんの買い物リスト
1枚目
モール1階の受付で私の名前を出したらおっきい荷物が1つあると思うからそれの回収と
その隣の手芸店で42番、56番の布材を買えるだけと、丸型の金具を4つ、あと注文してたレザーが届いてる頃だと思うからそれも取ってきてね
2枚目
3F東館の一番奥のアミュネーションで9mmと8mmのペレットを3箱ずつとSA-9の交換スライドと67番の部品とメンテナンスグリス
3枚目
修理に出してたキーボードが出来てるので取ってきてください\(>ω<)
4枚目
地下一階ジャンク通りであるだけ買って
強化プラスチック材
CFRPシート
通電装甲(断片でもよし)
アルミフレーム
5枚目
(走り書き)
ほんとごめんなさい!代金はこれと一緒に渡したカードで払っといてください!
欲しいもの買っていいので……お給料も払いますから…… シトラス
「………うん」
「……(うんじゃないけど)」
「えーっとね!僕らしく曖昧なことを言うとね、うん!無理かな!」
「…はっきり…言うなぁ…」
困り顔のウィスタリアはすたすたと歩いていく。
「……(早く終わらせて帰ろ、ね?)」
「…役得のはずなんだけど…腑に落ちないなぁ……」
会話を交わしながら依頼の品を揃えていく2人。
「…うー(大丈夫?私も持とうか?)
「……大丈夫…車呼んで…1回荷物置こう…」
前が見えないほどの大量の荷物を持ちながら彼は答えた。
それを聞いてウィスタリアは端末を開きシトラスに連絡する。
「…シトラスさん…車…お願い…駐車場に…うん……わかった……」
「どう?すぐ来るって…?いや、すぐ来てくれなきゃ僕が持たない……」
「…ぁーう……(大丈夫、もう停めてあるって、6階の扉横の立体駐車場、若草色の高そうな車、鍵は私で開けれるようにしたって)」
「……上かぁ」
「もうちょっとだけ……頑張って……」
荷物のバランスを崩さないよう注意しながら2人は上へ上へ登って車に荷物を積み込みに行く。
「これでいいかな…?」
「ふぅー…いやぁヴェルたちも人使いが荒いんだねぇ…こんな重労働を女の子一人に任せるなんて…」
「…元々私の仕事じゃない……それに…シトラスひとりの…仕事でも…ない…」
「そっか…そうだよね!そんなひどいこと、しないよね…さぁ、次の買い物行こうか…ん…?あれ、セレンじゃないかい?」
彼の指さす方にはステージ上でミニライブをしているセレナータの姿があった。広場のステージの設置場所付近は大勢の人でごった返し、上の階にも多くの人がその姿を見ようとしていた。
「ほんとだ…すごい…ひと…」
「人気者だねぇ…」
「…自慢の…親友だよ……」
話しているとステージからよく通る聞きなれた声が聞こえる。
「ありがとー!さーて、次が最後!新曲いっちゃおう!私のために足を止めて聞いてくれるみんなに感謝を込めて!"ホワイトアウト"!!」
ピアノの優しげな伴奏とシンセサイザーの音色に合わせ、ゆっくりと歌い出す。
「―やめないよ今なら負ける気しない―魔法のような勘違い理由なんてないんだから―…」
「こうしてみると、有名人と肩ぁ並べて戦ってるんだねぇ僕達……」
「……私たちにとっては……普通の女の子…だよ」
「デートみたいだね、こうしてみると、さ」
「……ん(そうすると私、本命の子の前で浮気してることになっちゃうんだけど…なっ!)」
そう念じた後、ウィスタリアは飲み終わった飲み物の容器をテレキネシスで頭にぶつける。
「ってて……照れ隠しかなぁ可愛いなぁもう…あ、まって、ごめんごめん中身!中身入ってるのはまずいって!!」
「…はぁ…(もう……そろそろ行こう、曲も終わるし、お使い済んでないんだよ)」
曲が終わる頃、2人はモール地下1階の通称ジャンク通りに向かう。地上の騒ぎとはまた別の音、特有の機械音や金属と油の匂いに満ちたこのフロアは別世界のようだった。
「パワードスーツの強化骨格…ジャンクにしておくにはもったいないなぁ…というかなんでこんなものジャンクで売れるんだろ…確かに状態は悪いけどそれでもまだまだ使えるだろうに~…ってこっちはフォトンブラスターのガワ…!?横流しかなぁもう相変わらず魔境だなぁここ~…でもそこが好き~……」
褐色白髪の少女は店先の金属製フレームやパーツの詰まったコンテナを漁りながら独り言を繰り返していた。
「…(ねぇお兄さん、このお使いやらなくてもいい気がしてきた)」
「同感だよ、ウィス…余計な仕事増える前に帰ろう」
「んー?そこなお二人さん、奇遇だねぇ~こんなマニアの魔境で~」
「マキナ…ちゃん…なんでいるの…?」
訪ねると彼女は得意げな顔で語り始めた。
「それはこっちのセリフだよ、こんな魔境私くらいしか来ないと思ってたのに意外な2人が来てるんだから…お使いかなにかかなぁ?私も頼んだんだけど自分で見ないと行けない気がしてきちゃってガレージ飛び出してきたんだけどね、やっぱここすっごいよ、工作機械の音とレーザー加工機の電子音、強化アルミフレーム材とシリコングリスの香り……」
「…長くなる?」
「あぁごめんごめん…ま、そんなわけで私のお買い物に来たんなら大丈夫だよ~、また屋敷でね~私はここのお宝たちを買い占めなきゃ~」
そう言うと彼女は店の奥深くに姿を消し、カゴいっぱいによくわかんない部品を詰め込んでいく。
「帰る…?」
「いや…これで終わりだけどちょっと遊んでこうよウィス、ゲームセンターがあるよ?」
「だめ…わたし…出禁……」
「クレーンとか取り放題だと思ったんだけどなぁ…そううまくいかないよねぇ」
「…だから出禁……やりすぎた……」
「考えることは同じだったかぁ」
「…屋敷に戻って…ちょっと遊ぼ?暇でしょ?」
「いや仕事…いやもういいか……帰ろ、ウィス」
そう言いながらモールを後にして荷物を車に詰め直して乗り込む。
「いやぁ高級車は違うねぇやっぱり…座り心地といい中の機械といい…」
「運転よろしくね、お兄さん」
「あれ、ウィスが運転するんじゃないのかい?」
「…え……(免許ないの?わたし運転できないよ?)」
「…テレポートとか…」
「…華ちぎれば出来るかもだけど…やりたくない……しょうがないからマキナちゃん、呼び戻してくる……」
こうして色々ありつつもマキナの運転で屋敷への帰路につく3人。。今日ばかりは超能力者としてではなく、普通の女の子として楽しめただろう。
「…ぁぅ…(そういえばマキナちゃん、随分大きな箱買ってきたけど中身はなぁに?)」
「あーあれね!AIS搭載の機銃の縮小モデル!壊れてるものがここに流れてたみたいでさぁ!幸い傷んでるのがチャンバーとバレルだけのものを本部の軍事部はテキトーに廃棄してくれたみたいで直して新しいバレットカーテンに組み込もうと思っていやーほんと普段の行いがいいとツキは回ってくるねぇ~!ほんと!横流し万歳!ね!ねぇ!」
「…ヴェルのお屋敷が軍も顔負けの武器庫になっていくのも時間の問題だなこりゃ」
ご機嫌な車が武器庫…ではなく屋敷に戻っていく。次のお使いが少し楽しみなウィスタリアだった。
改めて読み返すと深夜テンションがあほみたいにでてて当時のわっちがなにかんがえてたのかわかんないの、でもたのしいからいいかぁ
ハラショー♪